たてのたけひさ
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◎詩をつくっています。俳句もつくっています→平室鯛松さんが主宰する「かくかい」に参加しています。 ☆#詩集『き。』 ☆#詩集『森の扉』 ☆句集『if』
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☆俳句は中学時代に友人と文通しながら作っていました。その頃は季語などの知識もなく、わずか十七音でも景色を切り取れる喜びがありました。今回の初句集は全212句で自分なりのポエジーを十七音に込めました。「かくかい」にお誘い下さった平室鯛松さんに感謝します。
8
31
327
☆寝酒でもプラマイゼロの孤独かな
☆昆虫や冬眠したい僕もまた
☆日記買へ白いページに美学書け
☆嚔してブルガリの香肺に満つ
☆ドライヴの窓から枯野しとどなり
☆底冷えてフルートの音も休止かな
☆漱石忌ゆふぞら朱く石鼓文
☆ことことと大白鳥が水を飲む
3
13
207
🌛ふっと
音楽がひたひたと流れて。
耳が洗われて救われる。
時間が猫足で通り過ぎて。
紫煙の向こうに過去形の自分が現れる。
2
8
202
☆オリオンやいつかはみんな灰になる
☆山眠る眠れる美女と瞑想す
☆冬の雨スマホ落ちてる夜もすがら
☆冥途の土産にダイヤモンドダスト
☆雀どちジャケット着込み朝餉かな
☆白い道ひひらぎの花黄昏へ
☆凍つる夜いついつまでも繋がろう
☆朽葉どき足の先にも寺の鐘
0
8
198
🍷別れの味（承前）
音符のかたちをした微生物が
わんさかうごめいてゐて
楽しそうでにぎやかだ
その海はくれなゐになってゆく
夕陽のせいかもしれない
掬って舐めると美味しい
なんでだろう？
また涙が出そうになる
（了）
2
6
194
☆すれ違い（承前）
あなたたちは女という秘密を
香水として蒸発させる
そとは古代の明るさで
寝室は現代の暗さだろう
階段はラベンダー色の絨毯で
そこにふたりの影が
馥郁と刻まれる
冷たい空気だけがふたりの
目的を知ってゐる
【了】
1
9
181
🍷別れの味
雷雨のなか
あのひとは去っていった
わたしはたちまち孤影となり
目から涙がまあるく落ちてくる
ふんわりと三滴を受けとめて
そうっと顕微鏡にのせる
じいっと覗くと
そこは静かな海で
ほのぼのと赤みが差してゐる
（明日に続きます）
1
6
179
🍷ようこそ中華鍋へ（承前）
この対句に溶き卵を流し入れ
つつましくご飯にかき混ぜて
熱々の中華鍋にぶち込めば
メイドさんはチャーハンになって
重荷がおりるかもしれない
ぼくがそうであるように。
…そうしてアキバの夜が更けてゆく
（了）
1
6
179
✨今年もありがとうございました。
2024年もよろしくお願いします。
アキバは曇空です。
☆川霧を切り裂く声の翡翠かな
☆水鳥やふわりすいすい波閑か
☆鳥の声にぎやか過ぎて枯葎
☆年忘れするまでもなく斑なり
☆去る年を見送る目にも泪かな
☆よく笑ひすぐ喧嘩して暮の空
3
7
180
🍷童夢
ありとあらゆる核兵器によって
地球はこわされて
花のように散りました
訃報はたちまち宇宙に伝わり
星の神々によって
合同葬儀がいとなまれます
皮肉屋の葬儀委員長は
弔辞を読みあげ
「必然であり
美学の究極です」
と讃辞を惜しみません
（続く）
0
8
176
🌛たった四行で
なにを伝えられるのだろう。
ささやかな自分自身のまなざし。
一滴未満の詩的な匂い。
そしてぽつんとした息づかい。
0
9
177
☆広場で（承前）
わたしの目線は正直
たしかによくなかった
「ごめん」
といった瞬間
今度はわたしが全身マネキンになった
ミロのマネキンは
じろじろわたしを見てから
そのまま立ち去った
【了】
0
8
170
🍷あゐ色
近づいてきた蝶を
幼女が追いかけはじめると
母親があらわれて
ふたりは手をつないで消えた
わたしも立ち上がろうとする
のだが叶わない
あゐ色の引力が離さないのだ
だから暮色をもっと楽しむことにする
（了）
0
5
171
☆黒猫のマスク剥がせば白猫だ
☆納豆の糸をたどつて異世界へ
☆凍露溶けぽたぽたぽたと朝日かな
☆黒鴨の水浴びあとの波しづか
☆鮟鱇に鍋で煮込まれ食べられる
☆自転車で猛追したい冬夕焼
☆赤や黄の落ち葉に雨の糸白し
☆迷ひ道ゆく当てもなく帰り花
0
7
170
🍷冬の蟻（承前）
だから喫茶店を出る
コーヒーの匂いに尾行されて
たたずむ赤信号
隣りをみるとぼくと等身大の
冬の蟻がひとり
触角をふるわせながら
やっぱり枯れた花束を抱えてゐる
ぼくたちはそれとなく会釈する
そして霧の中で
信号が青になる
【了】
0
8
168
🍷月蝕（承前）
みんな死にものぐるいである
ぼくはぼくを
どうしたらいいのだろう
と思ってゐると
ぼくの詩集が姿をあらわした
ページをめくってみると
一篇一篇が涙なんか流して
ぼくを非難するので
ぼくは棒立ちしたまま
何とかして
自分を笑わせようとした
【了】
0
6
164
🍷蠱惑（承前）
あなたたちの秘密を知ってゐて
あなたたちも
その花言葉をおぼえてゐる
雨の音がすると
あなたたちは
ふくよかに抱擁する
青いカーネーションは
嫉妬して
泣いた
（了）
0
5
166
☆街路
余命わずかとのこと。
自室をいったりきたり
長時間シャワーを浴びてから
自動記述みたいな
わけの分からない詩をつくった
遺書のつもりである
ざわざわするので散歩に出る
夜空には余命たっぷりの満月だ
着てゐるものを一枚ずつ
乱暴にはぎ取ってゆく
そういう心境なのだ
【続く】
0
6
164
🍷童夢（承前）
弔意を表するために
ご自慢の帽子をぬごうとしても
どうしてもぬげなくて
ぽっと顔を赤らめるのは土星です
御斎にはたくさんの
お菓子が食べ放題です！
喪が明けるまでのあいだ
鯨幕が張り巡らされた銀河系に
なんだか楽しそうな葬送曲が
ひたひたと響きわたることでしょう
（了
1
5
168
☆霧のなかにゐる日夜を過ごします
☆真夜中に葡萄ひとつぶ囁けり
☆露草はちひさいけれど青冴えて
☆かのじよは骨壺にゐる秋の夕
☆大（おほ）くさめ銀河にとどき響くなり
☆白磁から秋コーヒーの香しづしづと
☆鈴虫のりんりんりんも消へる夜
☆赤とんぼ指にとまつて檜枝岐
2
10
163
🍷スマッシュ（承前）
ぼくの悶々とするスマッシュを
夏空のようにカットするきみは
さわやか過ぎないか
でもぼくは卓球のおかげで
一人称を置き去りにすることができた
きみの香水はたゆたいながら
ひたすらふたりの仲直りをめざす
カットとスマッシュとツッツキは続く
やっぱり無言のままで。
（了）
2
4
164
🌛シグナル
ぼくはぼくに閉じこもり。
きみはきみを虚飾する。
なにがあってもお互いスルー。
うわべだけの交点にそよ風は吹かない。
0
10
167
☆秋の浜ゆめに見しひととほり過ぎ
☆色葉散る風もうつろに螺旋かな
☆前を向け時間はないときりぎりす
☆秋日傘ねこもニャアとついて来る
☆草の花写メの音する小径かな
☆おほぞらにうろこ雲やらきのこ雲
☆過去のひと幻めいて秋の暮れ
2
8
165
🍷蠱惑
ふたりのあなたは
丸テーブルで向かい合って
ゐる
花瓶には青いカーネーションが
ある
ひとりのあなたは
目をそらし
もうひとりのあなたは
目をとじてゐる
ふたりのあいだで
空気が曲がってゐる
なにがあったのだろう
青いカーネーションだけは
（続きます）
0
7
164
☆鐘氷りダイヤとルビー逢引す
☆影冴えて赤い実ひとつ帰り道
☆北風に向つて告るメイドさん
☆屋上でオリオンに告ぐ i still believe
☆いてふの葉猛スピードで冥界へ
☆「や」や「かな」で悩みとほして小春空
☆寒波来て香箱なめり猫しづか
☆隙間風から父母の声なつかしい
0
3
161
☆冬のバス過去の自分が坐つてる
☆裸木に突き刺さる雲透きとほり
☆焼芋や哲学談義公園で
☆カレンダーめくる先には師走かな
☆冬の日も泣き笑ひしてドットコム
☆なほ暗し街の灯りも冬来たり
☆落葉舞ふ横断歩道雨しきり
☆マフラーをぎゆつと締め息白し
0
5
158
☆広場で
ミロのヴィーナスみたいな
等身大のマネキンに出逢った
おもわずあいさつする
「やあ」
と親しみを込めて
右手を上げた
するとマネキンは
「失礼ね」
と冷たくつぶやいた
空耳ではなかった
わたしは真っ赤に染まり
お尻までくれなゐだ
【続きます】
1
6
158
🍷ようこそ中華鍋へ
まず初めに中華鍋がでんとあって
金髪のメイドさんがあたたかい手で
ぼくの悲しみと孤独を
無理やり引きずり出し
あっさりみじん切りにして
熱々の中華鍋へ。
それからメイドさんは
ディープパープルなまな板に
ぼくのつらい過去を並べて
（続く）
1
5
161
☆ことば（承前）
文法もなく
語彙もとぼしく
品格もない
だけど本音だらけ。
青空を眺めながら
耳を澄ませてみよう
こころ言葉の爆ぜる音に。
【了】
0
7
158
⭐聖域（承前）
やがてぼくたちはしいんとして
夜空をながめる
新月だから星の数がすごい
ここはちいさな集会所であり
秘かなサンクチュアリだ
【了】
0
8
161
☆みづうみに花火の光ビビッドや
☆月明かり猫のツンデレ風斜め
☆聖域で音楽聴いて秋を飲む
☆どぶろくで過去を忘れて星を見る
☆秋の虹みたいなきみの笑い顔
☆風の盆をんな踊りの手ゆうが
☆話してよあのさなんかさ秋だから
☆あとさパンが食べたいんだ秋ベンチ
0
10
158
☆さようなら（承前）
別れの記念に
あたしは投げキスした
かれは黒い服を着たまま
皇帝ペンギンみたいに立ち去った
部屋には
静かさだけが
うるさかった
【了】
0
12
157
🍷斜め
秘密深いぼくたちは
雨霧たちこめる
美術館で待ち合わせる
きみはまだゐない
ぼくはその絵に吸い込まれる
…青さに隠れるように��て
斜めに寄り添う
ぼくは首を傾けながら
じっと鑑賞する
【続きます】
0
5
159
🌛びりびり
ふたりの間にいつもと違う空気が吹く。
ということは透き間があるってこと。
互いに素知らぬふりをすればするほど。
そこはびりびりに大きくなってゆく。
1
7
161
🌛會津にて
窓を開け放つと。
いろんな音があふれている。
川のせせらぎ虫と鳥の声風の息吹。
雲さえ鼻歌まじりでぽっかり浮んでいる。
1
7
162
🍷ランプ（承前）
背後の山々は
陰翳のヌードである
ランプたちの秘儀に呼応して
埴輪たちがあらわれ
歌垣をもよおす
みんな現代から
逃げ出してきたのだ
儀式は朝までつづき
そのあいだ砂丘は
つかのまの蜃気楼である
（了）
1
7
160
☆鑑賞（承前）
みんなは知ったかぶりで
感想を言ったり煙草をのんだり
時間をもてあます
みんなの顔が哀愁そのものだ
アーチ型のガラス窓から
有明の月がみえる
みんなはここから逃げたい
でも扉は閉まったままだ
鑑賞は限りなくつづく
ここは閉鎖美術館なのだから。
【了】
0
8
158
☆ドライブ
道路の先に逃げ水が走ってゐる
それは錯覚で
わたしの内面に生じてゐる
ものかもしれない
助手席のあなたは
いつもより寡黙で
わたしはいつもより饒舌だった
多くの言葉で不安を隠すように。
あなたはそれとなく腕時計をみる
まなざしで気持ちを確かめるように。
【続きます】
0
7
157
☆しとどなる満天星紅葉燃へにけり
☆いてふ散り黄色の風が吹きぬける
☆引き出しにたぷたぷたぷと秋の海
☆天にらみ秋のくわがた静まれり
☆夕化粧ライト照らされ恥づかしげ
☆メイドさん月にむかつて吠えてゐる
☆蔦もみぢ見上げるうちに日の名残り
0
8
156
🌛……
点として「おぎゃあ」と生れてきた。
水と風に移ろいゆく日々。
いくつかの「やあ」があって。
最期に「じゃあ」と見送られる。
1
7
159
⭐夕餉（承前）
ちいさなテーブルに
サラダやコーンスープもあって
カレーライスの皿がでんとある
さっそく頂くことにする
とてもおいしい
ベランダで仰向けに転がってゐた、
あのセミは発音器がなかったから
たしかメスだったのだろう
【了】
0
4
155
☆どんぐりをあげたらきみは栗鼠になる
☆いてふ散り枝ぶりすべてゴシック體
☆小鳥きてきみもついばむ朝餉かな
☆新米の真上で香る焼き海苔よ！
☆釣れるのは想ひ出ばかり秋惜しむ
☆ひぐらしや命いつまで続くのか
☆夜更けても詩が浮かばない秋の雨
☆ワイン飲むひとりぽっちの秋の宵
1
7
158
🍷あてどなく（承前）
つかのま哀しみは
そよ風にはこばれる
人生はみじかい
月もどんどん
欠けてゆく
いまのうちに
歩きまわろう
永遠の静物になるのは
約束されてゐるのだから。
（了）
1
4
151
🍷斜め（承前）
恋人たちは宙に浮いてゐて
男の手には花束があり
白いロングドレスが
女によく似合う
みてゐるうちに
いつしか目の前が霧状になる
ふと振り向くと
きみがたたずんでゐて
きみの涙は
斜めにしたたる
【了】
0
5
157
🍷あゐ色
庭園のベンチに坐り
あちこち眺める
暮れそうで昏れないあゐ色の空
赤れんがのアーチ
噴水の繊細な水しぶき
植物たちの華やかな配置
向かいのベンチには
幼女がぽつんとゐる
真っ白い蝶々が三匹
上にいったり下にいったり
その軌跡が鈴を鳴らすようで
それだけ辺りは静かだ
（続く
1
5
156
☆街路（承前）
前から全裸の美女があらわれる
やはり告知されたのだろうか
親しみがわいて軽く会釈を交わす
ふと見ると
街路樹も落葉して裸木である
なんだか寒くなってきた
部屋にもどって暖をとろう
【了】
0
6
152
☆みみず鳴きからす啼く竹の道
☆稲光りこころの襞を照らしけり
☆マーモット錦秋ながめキョトンとす
☆近視でもとほくに見えるカンナかな
☆メイドさんとなんども見る二つ星
☆照る葉からぽつぽつ落ちる黒い雨
☆合唱だね小鳥たちだよ耳たのし
1
7
155
☆絵馬の文字色なき風に読まれけり
☆神宮の湧き水もらふ秋すずめ
☆ふたりして黒猫見つめ秋の暮れ
☆秋雨に泣いて目覚める夢の朝
☆風景のコントラストに秋がゐる
☆窓のそとカラス飛び立ち枯れ葉舞ふ
☆目薬の沁みるあひだに秋しぐれ
☆露草を反映してる青い空
1
4
154
🌛出発
行ってらっしゃい起承転結！
元気でね虚実皮膜！
銀河へ向かう線路がはるばると青白い。
列車は物語をのせて走り去る。
1
9
155
🌛爆
詩を作ろうとおもった。
なんにも浮ばないから青インク瓶を放り投げる。
割れた窓ガラスから夕陽が見えた。
巨きくていまにも爆発しそうだった。
0
6
156
🍷青（承前
…ぼくはたちまち
あかんぼに進化して
ミルクに酔っ払い
世界のためにばんざい
哺乳瓶の底に
きれいな眠りがおむつにくるまれて
やわらかく風景してゐる…
綺麗にそしてまっさらに目覚めると
青空の真下のベンチで
ぼくはだれかと坐ってゐる
ずっと逢いたかっただれかと。
【了
2
8
150
498🌛読まれる
本がぼくを読んでいる。
あくびをしたり、こっくりしたりしながら。
「ちゃんと読んでよ」とぼくは抗議した。
すると、ぼくは閉じられてしまった。
2
5
154
🌛Lost Room
泣きながら満月を見た。
あっというまに吸いこまれ。
月面にたたずんでいた。
笑いながら地球をながめた。
0
6
152
🌛満月
黄金色が降り積もる庭園で。
ぼくはじっと待つ。
今夜だれかと約束していたはず。
ぼくの足許で黒猫がなにかを見つめている。
2
6
155
🌛朝顔ベッドで
いちにの三で目を閉じてみよう。
世界はたちまち消える。
でもぼくたちはつながっている。
朝顔の花ひとときのふたりぽっちだよ。
0
4
156
☆仲直り
ぼくのなにげないひとことで
きみのへそは曲がった
いつもは明るい凹みなのに
ひどくゆがんでゐる
きみはずっと
手鏡をはなさないで
お化粧に逃げこむ
ぼくはダンゴムシの感じで
首をまるめながら
おそるおそる
きみを見つめる
【続きます】
0
7
151
🌛モノクロは語る
一枚の絵がある。
それを白黒写真で撮ってみよう。
色彩に騙されていたのが分かる。
光と影だけが詩のように実在している。
2
7
154
🍷があがあ（承前）
きみをみつめるしかない
きみに気づいてもらいたくて
があがあ鳴くしかない
きみは猫の眼でぼくをみる
食べたいの？じゃれたいの？
ぼくたちはこんなにも
近距離でみつめ合いつづける
きみは猫のような女として
ぼくは単なる鳥として。
【了】
0
5
152
🌛拭
濡れたフロントガラスから景色をながめると。
不意に哀愁にさそわれる。
世界が悲しみに暮れているみたいで。
だからワイパーでぬぐった。
0
6
153
🌛前夜
バラードをききながらチークダンス。
泣いてるのかい？
ぼくはめちゃくちゃ追憶している。
あしたはもう来ないのだから。
0
5
153
☆すれ違い
ふたりの女がゐる
ひとりは階段から下りてきて
もうひとりは階段を上ってゆく
ふたりはモデルみたいにポーズして
女性としてのプライドと偏見を
むんむんさせながらすれ違う
そとは真昼なのに
遠景は真夜中である
おりてきたあなたは日光浴？
のぼってゆくあなたは寝室へ？
【続
0
6
151
🌛ふりかえると
寝苦しい熱帯夜のうしみつどき。
風に当たりたくて散歩にでかける。
うしろから誰かがついてくる。
ハイヒールだけが歩いているのだった。
2
7
152
🌛逆
机がぼくに向かってなにか書いてる。
万年筆がぼくの手を握りしめた。
原稿用紙が何度もぼくを破いた。
時計の文字盤が鏡を反転させる夜。
3
6
152
☆鴛の夢を追ふよに水の跡
☆なぜに俯くのか鈴蘭水仙
☆頬白や驟雨にめげず空に消ゆ
☆花粉症鼻つまりつつ君を嗅ぐ
☆カーテンに定住しをり春の蠅
☆春の闇眼光二つ黒猫の
☆麗かや展覧会で連れ探す
⬇雨粒も黃に黃に染めし山茱萸
1
4
151
🌛春の音符
鉄塔から七本の電線が張っていて。
雀の音符がびっしり。
モーツァルトの明るい曲だ。
暗い出来事を忘れてハミングする。
0
4
152
🌛ことばの行方
ひとつの言葉がぽつんと置かれると。
いろんな形容詞が集まってくる。
それらを開花させたいのだがほとんど枯れてしまう。
夜が明けるとそこはしいんとした砂丘である。
1
6
152
☆夢うつつりんどうといふ音あはれ
☆そぞろ寒仔猫の寝息ゆめごこち
☆いつまでも手を振つてゐる長き夜
☆柿食べて笑ひころげるきみとぼく
☆雨の日に秋の灯沁みる別れの日
☆空あふぐ猫の傷秋風まかせ
☆夜型のきみ朝顔すごく好きだつた
☆入紅葉かぜに揺られて空は青
渓流で色ながら散る一瞬
0
5
149
🌛會津にて
渓流の音を聴いていると。
耳の底を流れゆくものがある。
それは青磁のようにしっとりなめらかで。
宇宙の一点をめざす時の流れである。
0
8
151
☆秋の底 wish you were here
☆あかとんぼ群れて曇天染めにけり
☆ビートルズ聴いてゐるかと柿に問ふ
☆チンされて銀杏どもは発砲す
☆消へたきみを風のなかに想ふ秋
☆秋夕焼け余白に綴るさよならと
☆飛行機が海を飛んでる秋天
☆さやうならどこにもゐない秋のきみ
1
9
146
⭐夕餉
外はきょうも猛暑で
心身ともにふらつく
公園の片隅に
セミの亡き骸を埋葬する
部屋に戻るや睡魔に襲われる
目よりも先に耳が覚める
食器の音やなんかがする
それは夕餉を黙々とととのえる音で
とてもなつかしい
【続きます】
0
8
147
🍷動物園（承前）
鴨長明のゆく河 マリリンの帰らざる河
芭蕉の水の音 そうしたものが
目の前に降る霧雨に伝わって木霊する
アルマジロとジャコウネコは
それらに耳を澄ましたまま
別れの言葉とともに透きとおってゆく
「じゃあね」……「またね」
【了】
0
6
148
🍷ランプ
砂丘のただなかに
ひとつの門がある
そこに通じる道には
おびただしいランプが
息をひそめてゐる
夜になるとランプたちは
ようやく目覚める
ガラスのほやに
炎がゆらゆら灯り
そしてカタツムリみたいに
門のまわりを這い廻る
（明日に続きます）
0
4
150
🌛三月
いちょうの裸木がアンテナみたいに群れている。
太陽から光を吸おうとしてみんな必死だ。
春に逢いたくてうずうずしているのだ。
三月の寒さがとんがっている青空。
0
5
149
🍷ようこそ中華鍋へ（承前）
今度は短冊切りにして
熱々の中華鍋へ。
ぼくはすっかり重荷がおりた気がする
メイドさんはオーバーなウインクをして
ぼくを大笑いさせてくれる
ついと考える
・メイドさんが一番悲しい
・メイドさんが一番孤独だ
（すぐ続きます）
0
4
147
🌛発見
すこしだけ抽象的な森に入ってゆく。
ベンチに腰かけて読む。
画集から物語を、詩集から光を感じる。
見上げると具象の大空がある。
0
6
146
☆朝芙蓉あさはノンアル夜ビール
☆ゆく秋にメイクばつちり君がくる
☆白昼にバイバイしきり楓の葉
☆ネットから消えたきみにも秋の朝
☆点々と吾亦紅あり風触れて
☆露冴へて父ははのかほ浮かびけり
☆ころころと紫しきぶ雨の中
☆秋ばらの真白さに咲く夜は夜
0
6
147
🍷スマッシュ
どうしてこんなに痛いのだろう
この話し言葉たちと
あの書き言葉たちとの
落差と温度差は！
そんなことを思ってゐると
喧嘩中のきみがやって来て
遮光カーテンをあける
そこには卓球台があって
せっかくだからふたりで打ち合う
（明日に続きます）
2
4
144
🌛糸のゆくえ
いろんな糸がある。
ずっと繋がっていたのが急に切れたり。
それまで何もなかったところから。
みるみる係わりはじめたり。
0
7
149
☆アイシャドウ緑雨に濡れてグラデかな
☆蜘蛛の糸風と光を搦めけり
☆牛蛙しじま破つて星遠し
☆海照らす白く遥かに夏の月
☆森深し傘を差すほど蟬時雨
☆風死して鼓膜の中も朦朧と
☆ふと気づくグラスの中に大暑あり
☆夜蟬飛び星が星呼ぶ湖畔かな
☆蟇仰ぐ星座氾濫會津かな
1
9
149