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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
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現在 全412話。制作: @ubuwarai
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
37 minutes
ぬかるみで体勢を崩し、手をついた。汚れた右手を左手でぬぐうと、泥は左手に移った。右手で払うと、また右手に移った。泥というものがどこまでも移っていく性質のものであることに思い至った私はしばらくどうしていいか分からずにいたが、蓮子が水で洗い落としてくれた。ネットで知った対処法らしい。
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
6 hours
荷物がなければ飛び越せそうな川幅だった。私は迂回して橋を探そうと言ったが、蓮子はそこのボート小屋で借りようと言い張る。「船があれば橋はいらない。自由なんだから」信じられないことだったが、小屋では模型のような小船を二隻借りられた。早速と足を乗せた蓮子は、見る間に川下へ流れていった。
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
11 hours
遅刻にも、もうこれ以上できない限界というものがある。今日私がしたのがそれだった。メリーは公園のベンチでいつまでも私のために待っていた。不在によって存在を押し付け続けるのは許されないルール違反なので、メリーの無意識はやがてとても美しい仕方で報復する。忘れるのだ。「あら蓮子、偶然ね」
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
16 hours
寝ているメリーを起こして終電を降りた。「ここにサーカスが来ませんでしたか」駅員にそう訊ねるのは何故か私の役目だった。「今夜引き払ったところですよ」残念ながら私達はまた一足遅れたのだった。サーカスというものは少しもじっとしていない。決して秘封倶楽部に見られないよう、逃げていくのだ。
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
21 hours
大学体育館で地下へ続く階段を見つけた。降りた先で思いがけず水着の蓮子に出くわした。無風の大空間に新築同然のプール。大学には稀にある、利用者のないまま忘れられた豪華設備らしかった。思わずわっと言いそうになる私を蓮子はとどめた。「静かに泳いでね。誰もここを思い出すことがないように…」
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
1 day
道を歩いていた。向こうから誰か歩いてくる。「おはようメリー」蓮子だった。私も挨拶した。「今日は情報量が少ないね」「過ごしやすいわ」「でもお昼からは増えるって」「そうなんだ」「うん」蓮子と道を歩いていった。時間が経った。お昼だ。そば屋さんで生姜天そばを食べた。割り箸が綺麗に割れた。
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
1 day
天気雨についてメリーの言ったこと、忘れることはできない。雲ひとつない青空というのに、雨が降りはじめた。「狐の嫁入りと呼ぶのよ」私はメリーに教えた。「私は宇宙人の贈り物と呼んでる」メリーは言った。「宇宙から降る雨だから。昼しか降らないのよ、月が濡れないように」忘れることはできない。
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
1 day
私たちの街にもツタンカーメン展がやってきた。教えてくれたのは蓮子だった。世界で何度目の展示だろう。会場は閑散としたデパートの片隅だった。来場者は私たちだけだった。展示品は素晴らしかったが、王様は明らかに寛大さを使い果たす寸前だった。蓮子がネクタイをしてきた理由はそれでわかった。
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
2 days
彼女は宇佐見蓮子です。レイテンシーの親友です。本を書くのを助けてくれます。私が書いた文章を削って短くしてくれます。彼女のおかげで本が出ました。バー・オールドアダムで飲むときに「お連れの方は?」と訊かれたら、私はいつでもこう言います。彼女は宇佐見蓮子です。レイテンシーの親友です……
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秘封倶楽部と状況
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2 days
蓮子の下宿の床下収納から見つかった錆びだらけの古い缶詰。「功徳」というラベルの貼られたその缶詰に賞味期限は書かれていなかった。ただし容量と思しき欄には「一人分」とあった。私も蓮子も何かぞっとして、すぐさま蓋を切って開けた。一匹の生きた紋白蝶が舞い上がり、窓の隙間から逃げていった。
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秘封倶楽部と状況
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2 days
メリーが絨毯を買った。居間に敷くと大きな地図を広げたように見えた。はしゃいで横になった瞬間、メリーが驚いて叫んだ。「絨毯の中に誰かいた!目が合ったの!」私達は絨毯に屈み込み、毛をかき分けて人を探した。しかしこの絨毯は広すぎた。五日後、草原の中でメリーと不意の再会。捜索を打ち切る。
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
2 days
蓮子の実家で光ディスクを見つけた。表題は「れんこ3才」、当然再生したけれど、想像していた映像ではなかった。目線からして子供の手で撮られたもので、窓の下からじっと息を殺し、青空を写していた。一塊の雲が、こっちへ迫ってくる。窓に影が落ち、「れんこー」と呼ぶ声が聞こえた。私の声だった。
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
3 days
メリーの誕生日に何が欲しいか訊くと「最終回が欲しい」と言う。買えるものではないので作ることにした。TVや漫画等の最終回を集めて研究し、当日は二人で過去を振り返ったり海へ来たり空を見上げたりした。良い最終回だった。あれから私達は最終回の後を生きているのだろうか。彼女は幸せそうだ。
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
3 days
「蓮子あれは!あれは何!」「あれ?あれは漁村の犬よ」「漁村の犬?」蓮子はこともなげに答えて通り過ぎたが、私は堤防の上に立ち尽くした。埠頭に座って海を見ているその生き物から目が離せなかった。知らなかった。犬が漁村ではあんな形をしていたなんて。犬の目が海と陸との境を引いていたなんて。
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
3 days
冬の深夜に台所でポツンと音がして、私達は顔を見合わせた。「蛇口から雫が落ちただけよ」メリーが言った。「日常に似た神秘に似た日常よ」しかしまだ正確ではなかった。蛇口からはそれ以上一滴の雫も落ちてこなかった。私ならこう言いたかった。「神秘でないかのような日常でないかのような神秘」と。
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
3 days
近ごろ冷蔵庫の様子がおかしい。蓮子に見てもらった。扉を開閉するときのセンサーの反応に違和感があった。自動で点灯する内部の照明は、まるで扉を開ける前から点っていたかに思えるのだった。「いや、冷蔵庫は先なんて読まないわ。メリーの方が点灯の後から開けてるのよ。どうやってか知らないけど」
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
3 days
「パラシュートがない!」メリーが言い出した。飛行機からダイブした直後だった。「出るとき確かに持ったのよ」と家鍵みたいなことを言う。どのポケットも探したが、ないらしい。半泣きになりながらメリーはそれを背に負っている。『千回に一回は開かない』という話も、こういうことなのかもしれない。
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
4 days
「なぜ水たまりは青くないの?」メリーが訊ねた。「光が十分拡散しないからよ」と私は答えた。「そういうことじゃなくて」とメリーは首を振った。「なぜ、水たまりは、青くないの?」……青いべきなのに。それがメリーの言いたいことなのだった。なぜ水たまりは青くないのか、私は少しも知らなかった。
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
4 days
買って半年経つ腕時計が未だに私に懐いてくれない。クロノスタシスだと蓮子は言うが、時計に好かれやすい質なので気づいていないのだろう。仕事を怠けている時計を私が見つけて蓮子に知らせようとしても、いつだってすぐ動き出して時間を合わすのだ。「きっとメリーが警戒するから、時計も怖がるのね」
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秘封倶楽部と状況
@hhclubSS
4 days
「本来全ての文章は、一人称・間接話法で書かれているのよ。ただそれを省略しているだけでね」と私はメリーに言った、と私は書いた。「だとしたら」とメリーは言った、と私は書いた。「自家中毒と自己校閲の末に、最後は全てを消去してしまわないかしら」とメリーは言った、と私は書いた。私は書いた。
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